「デザインされたブログは覚えてもらえる」常により上を提案するデザイナー前田高志氏のインタビュー
アートディレクター/グラフィックデザイナー前田高志氏インタビュー
日ごろ「グラフィックデザインは価値を伝えること」だとおっしゃっている前田さんのお仕事ぶりは、ブログ 前田高志/NASU を拝見して存じ上げていましたが、お話をさせていただいて改めてわかったことがたくさんありました。
印象に残っているのは、「浅いまま完成しないように気を付ける」という言葉でした。
前田さんがしていらっしゃるデザインという仕事は、自分の思いではなくクライアントの要望を起点に始まる仕事なので、「いかにクライアントの要望の深いところを理解するか?」が、非常に重要だということです。
言われたとおりに作って「はい、オシマイ」というタイプのデザイナーも存在するので、ここはとても大切なポイントだと思います。
前田さんが繰り返し「もっと上のデザインを目指している」と語られたように、クライアントが言葉にできない、気づけていない要望まで掘り下げて知って、それを「どんぴしゃの形にできるところ」はすごいです。
だからこそのプロフェッショナルなんだと思いますが、言うほど容易(たやす)いことではないので、やはり感動します!
では、そんな感動をおぼえたインタビューのやりとりをご覧ください。
前田高志氏:略歴
前田高志 : アートディレクター/グラフィックデザイナー
兵庫県伊丹市出身
1977年6月1日生まれ
大阪芸術大学グラフィックデザインコース卒業後、
任天堂(株)企画部にて14年間、宣伝広告のデザインを主に従事。
2016年からNASUという屋号でフリーランスとしてスタート。
受賞歴
Art Directors Club(NEWYORK)
OneShow Design
全国カタログポスター展経済産業省商務情報政策局長賞 他
「前田高志/NASU」より
― 本日は私が制作・販売しております手帳『nicca branding diary』のデザインも手掛けてくださいました、アートディレクター/グラフィックデザイナーの前田高志さんのインタビューです。
nicca branding diaryのコンセプトが「起業主婦の応援」なので、起業家がブログで自分を発信して行こうとするときに何が大切なのかを、デザイナーの視点で前田さんから伺わせていただきたいと思っています。
本日はよろしくお願いいたします。
ブログデザインとは
覚えてもらえるブログにするための、看板つくりのようなもの
― ブランディングを考えてブログのリニューアルもされていらっしゃるので、そのあたりからお話を伺い始めてよろしいでしょうか?
前田高志氏: はい 。
デザインされたブログは覚えてもらえる
― 私は現在自己流でブログを作っているのですが(笑)
自己流のブログよりも、デザインされたブログのほうが良い点、
デザインの効果は何だと思われますか?
前田高志氏: ブログっていっぱいあるので、検索して、たまたま行った先のブログのことなんて、よく覚えていないと思うんですよね。
だからまず覚えてもらうために、人の目をひく、覚えやすいサイン。
サインてわかります?
お店でいう看板みたいな。覚えてもらいやすくて、思い出す取っ掛かりになる・・・
覚えてもらえる「看板」ができると思います。
前田高志氏: 「はらぺこかぞく」のオーナーの方は最初、ヘッダーにビオレママのイラストを使っていたんですよ。
それは、すでに色々なところで使われていて、あまり覚えてもらえない。
なので、損しているわけですよ。
彼女の文章はとても良いのに残念だと思って、最初「ロゴだと高く付くので予算合わなかったら、よかったらバナー作りましょうか?」って提案をさせてもらいました。
― 詳細はこちらですね・・・
きちんとデザインすることで、コンセプトを雰囲気で伝える
前田高志氏: ロゴとかバナーをきちんとデザインすることによって、覚えてもらえるプラス・・・
「このブログがどういうものか」、「どんな人が、どんなことを発信しているか」などを、雰囲気や感じとして、デザインで伝えることができるってことですね。
ブログデザインには、「お店の看板」のような効果があるって思います。
たまたま、今出てきたワードですけれど(笑)
デザインされたブログの場合、検索して来て、二度目来て、三度目たまたま来たときに、「あ、ここ前にも見た」ってインプットされるじゃないですか?
三回目来たときに、「あ、ここ前にも来たな。あの記事が良かったからブックマークしよう」とか・・・
デザインには、そういう「記憶のフック」になる、取っ掛かりになる役割があると思うんですよね。
前田高志氏: 「ファザーログ」のロゴデザインをして、カラーも変えたんですけれども、それだけで、リピーターが増えたそうなんですよ。
変える前は、1日6000~8000pvだったのが、12000pvになったんだそうです。
ロゴを変えただけで、pvが上がったって喜んでくれました。
リピーターが増えたのでしょう。
― このブログには、こういうデザインが良いと決めるときは直感ですか?
前田高志氏: 直感というか、単純な発想しかしていないんです。
【店づくり】THE BUTCHERのブランディングデザインの話
前田高志氏: 店名の「ブッチャー」というのが肉切り包丁で肉をさばく人という意味なので単純明快に
前田高志氏: 「はらぺこ家族」にしても、「はらぺこやから、原始人」
普通にはらぺこを表現するときに、「おなかすいた人」よりも原始人のほうがおぼえやすいかなって思って。
それと、僕の世代だと「はらぺこかぞく=ギャートルズ」なんですよ。
前田高志氏は、提案するデザイナーである
― ]私が前田さんにブログのリニューアルをお願いするときには、どのようにしてイメージをお伝えすればいいのでしょうか?
「起業主婦を応援する感じで、でも主婦向けよりかは、男性も読めるような固い感じで」とか・・・言葉で印象やイメージをお伝えすればいいですか?
それとも「○○さんの絵みたいな感じで」とか、絵柄を限定されて依頼されるのだったらどちらがいいのでしょう?
前田高志氏: 僕の場合は、一から提案したいので「こういう形にして」と言われるよりかは、「こういうことで困っていて、どうしたらいいですか?」と言われるほうがいいです。
「こうしてください」という依頼のほうがラクっちゃラクなんですけどね。
でも、そこから僕、わりと疑ってしまうので。
「こうやりたいとおっしゃっていますけど、実はこっちのほうがいいですよ」ていう提案をしていきたいタイプなんで。
デザイナーによっては、具体的な指示があるほうが良いっていう人もいるし、そういう人のほうが多いんですけどね。
― クライアント自身が気づいていないような方向性を、「こちらのほうがより、あなたの願っていることを具体化できるんじゃないですか?」ということをお伝えするわけですね。
前田高志氏: はい。
ゴールだけは聞いて、手段はこちらから提案することが多いです。
でもクライアントの考えをいきなり否定するわけじゃないですよ?
クライアントのアイデアをちゃんと形作りながら、こちらのほうがより良いんじゃないですか?という提案をするということですね。
自分のアイデアを否定されたら、イヤな気がするじゃないですか。
まずやってみて、やってみないと僕もわからないんですよ。
直感でダメだと思っても、作ってみたら意外と良かったりすることもあるので。
まず作って「僕の考えのパターンどっちがいいですか?」って提案する形ですね。
ブログデザインの依頼で、最重要なことは何か?
― ブログのデザインを依頼するときに、オーナー側は何を最重要に伝えれば、デザイナーと意思疎通できますか?
前田高志氏: ご自分の強みが何なのかを理解して絞り込むことですね。
本来はデザイナーが引き出すものではあるので、意思疎通ということで重要な点といえば、考えがコロコロ変わらない、ぶれないってことかな。
― アイデアを全部出して、前田さんとの対話の中でトップ3くらいに絞り込む。
そして、決まったことは変更しないという態度で臨むのが良いわけですね。
前田高志氏: 上がってきたものに対して、違うなと思ったら言ってもいいと思いますけど。
― クライアントが気づいていないか、言語化できない要望・方向性に前田さんが気づいて、「こうされたらどうですか?」と提案されたときにですね。
クライアントが最初に持っていたイメージとは違うけれど、「そっちのほうがいいですね! さすがデザイナーさんですね」と言われることは良くあるんですか?
前田高志氏: それは多いですね。
ありがたいことにほとんどそうなっています。
デザイナーと雰囲気やイメージを共有する方法は?
― ブログそのものの「感じ」とか「雰囲気」など、うまく言葉で言い表せない部分をどう伝えたら伝わるのかと悩むと思うんですね。
だから、ついつい、「○○さんのブログみたいな」って言ってしまいそうになるんですけど。
そうすると、最初に前田さんがおっしゃっていた、ロゴやブログを見ただけで思い出してもらえる独自性は無くなってしまいますよね?
どこかで見たことのあるブログになってしまいます。
イメージを伝えるには、写真や雑誌などほかの媒体を使う
前田高志氏: 競合のブログから選んでしまうと、似たものになってしまうので、本とか雑誌から選ぶといいんじゃないですか?
ここまでデザインが出回ると、何かしら似てるものはありますけどね。競合とかぶらなければいいんじゃないでしょうか。
― たとえば、「写真家の○○さんの写真みたいな雰囲気で」という伝え方が、前田さんをあまり縛らずに、「私の好みの雰囲気はこういうのなんですよ」ってことがわかってもらえるんですか?
前田高志氏: そうです、それはわかります。
むしろ有難いと思います。
ただ、それをそのままやるデザイナーもいるので、気を付けないといけない。
僕は、その雰囲気は取り入れつつ、その人なりのオリジナリティを入れたいですね。
キャッチコピーやテーマもイメージを伝える重要な要素
前田高志氏: 写真と言葉ですね。その人となりを表すキャッチコピーとかテーマですね。
ブッチャーの場合は「肉々しい」というテーマがあって、テーマをもとにデザインしているんですよ。
はらぺこかぞくの場合は、そのまんま「はらぺこかぞく」です(笑)
希望に合うデザイナーをネットで探すことは難しい
― 私はたまたま前田さんと知り合えましたけれど。
ネットでデザイナーを探すときに、どういう姿勢でデザインをしている人かを知るにはどうしたらいいんでしょう?
前田高志氏: そうですね。
「言ったとおりやってくれるデザイナー」か「企画提案もしてくれるデザイナー」かは、ネットで検索しただけでは、わからないですね。
だからデザイナーの仕事って、ほとんどクチコミなんですよ。
たぶん、ネットで探すのは難しいと思いますよ。
高い値段払って、あんまりなデザインができてきたり。
お金を払えばよいものができるという保証がない。
会社員から独立&起業された前田さんから、起業主婦へのメッセージ
情報発信よりも、まずサービスの質を高めること
前田高志氏: 最近思うのは、ブログとかSNSとか情報発信は、もちろん大事なんですけれ ど、「結局は、本質のサービスかな? その基盤がないと情報発信しても意味がな いかな」と思ってます。
僕も一時期、PV(ページビュー:何回ページが閲覧されたかを示す数)をもっとも っと上げないと!と思っていたんですけど。なかなかデザインの仕事しながらブロ グを書けないし、PVをあげられなくて(笑)
もちろん、PVって高い方が良いに決まってるのですが、まずは身近な人に自分の価 値を伝える方が大事だなって最近思っています。
― 私もコーチから同じことを言われました。
「あなたはPVを上げたいの? それとも仕事にしたいの?」って。
私みたいな仕事(コンサルティング)の場合は特に、PVを上げることと「仕事になること」が直結しないので・・・。
職種によって、PVの重要性って変わるんですよね。
事業を始めるときに、宣伝広告って大切ですけれど、「もともとの商売(サービス)が良いものでなければ本末転倒になるよね」というのは、私も思います。
ちなみに、こちらが前田さんに作っていただいた、nicca branding diaryのロゴマークです。
ありがとうございました。
ブログは名刺代わり
― でも、ブログは名刺代わりに役立つので、ブログもしっかり書かないといけないなと思っていますし、だから、前田さんにデザインして頂きたいという野心ももっているのですが(笑)
前田高志氏: ヘッダーにコンサルしている写真を入れたらいいですよ。
ー そんな写真も、前田さんが撮られるんですか?
前田高志氏: カメラマンに頼みたいんですけど、高くなるので。
― ちなみに、気になるサービス内容と製作費はこちらに詳しく書いてあります。
デザインされたブログのほうがメジャー感が出る
― ブログを名刺代わりにするなら、やはりオーナーの人となりや事業のコンセプトがしっかりと伝わるものが良いですね。
前田高志氏: きちんとデザインされたブログを作っていたら、個人事業であっても、信頼感、メジャー感(ちゃんとした企業であるという印象)を与えることができると思います。
グラフィックデザインの力
グラフィックデザインは価値を伝える。その意味は?
― 最後に、前田さんがおっしゃる、「グラフィックデザインは価値を伝える」という言葉の意味を教えていただけますか?
前田高志氏: 僕は、価値を伝えるのがグラフィックデザインの役割だと思っています。
これは、あまりわかっていない人が多くて。
ロゴっぽいものができたらそれでいいやくらいにしか思っていないんですね。
見た目の美しさとか雰囲気づくりみたいなのでロゴを求めている人が多い。
でもそうじゃない。
グラフィックデザインとは価値を伝えるものなんです。
情報を集約して、一目で価値がわかるものです。
ネピア鼻セレブのデザイン変更は、より上のデザインを実感させた
前田高志氏: 価値を伝えるグラフィックデザインの実例を一つ上げるとしたら、 たとえば、「ネピア鼻セレブ」。
前田高志氏: ネーミングも含めてなんですけどね。
パッケージデザインを「白いうさぎ」「白いアザラシ」「白い豚」のデザインにしたことで、売り上げが爆発的に上がった。
前のデザインは「人間の鼻」だったり、「鼻セレブ」って書いてあるシンプルな箱だったりしたんですよ。
それはそれで、好評だったんです。
それを動物に変えたとたんに、爆発的に売れた。
白い動物がフックになっていて、まず見てくれるじゃないですか?。
動物と目線が合って、見てくれる。可愛いし。
そして、白い動物がティッシュの柔らかさを感じさせますよね。
だけどもうひとつ。
白い動物というだけじゃ、だめなんです。
動物の黒い目(目線)があるから見てもらえる。
すごく目立つと思う。
見てもらわないと商品の存在が伝わらないから、見てもらうためのアプローチが必要なので、目立つことは大事なんです。
そうして伝えるイメージが、商品が与えるベネフィット(利益)とマッチしている。
― 上質な、白い柔らかい紙で、何度鼻をかんでも痛くならないというベネフィットを伝えていると。
前田高志氏: 以前の、「人間の鼻」のデザインでも好評だったし、お客様に受け入れられていた。
けれど、それでもまだその上があるということを作ってみせた、良い例だと思います。
常に「より上」のデザインを考え提案するのがデザイナーの仕事
前田高志氏: デザインって、これでいいやと思ったら完成になってしまう。
だから、浅いまま完成してしまわないように気を付けないといけないと思っています。
デザイナーとしては、クライアントさんがOKしたら、仕事としては終わりなので、「もっとその上があるんじゃないかな」と常に考える。
そして、言われたことだけじゃなくて、「もっとこうしたほうがいいんじゃないですか?」とご提案しているんです。
― なるほど。
デザイナーには二種類あって、クライアントの要望通りのものを作るタイプと、リクエスト以上のものを作ろうとするタイプがあるというお話でしたが。
まさに前田さんが、クライアントの要望以上のものをいつも提案しようと心がけているデザイナーだということですね。
私はデザインについては全く無知でしたが、今日、前田さんにお話を伺って、デザインの深い部分に少しだけ、触れることができたような気がします。
本日は、お忙しいなか、お時間を頂いてありがとうございました。
前田高志氏: こちらこそ、ありがとうございました。
まとめ:太字にしたい前田さんの言葉
- デザインされたブログを作っていたら、個人事業であっても「信頼感」、「メジャー感(ちゃんとした企業であるという印象)」を与えることができる。
- 制作に対して考えの合うデザイナーを探すのはまずはクチコミで。ネットでは後 回し。
- お金を払えばよいものができるという保証はない。
- クライアントも自分の強みを理解して、徹底的にテーマやイメージを伝え合うと良い結果が得られる。
- 価値を伝えるのがグラフィックデザインの役割だと思う。
- ロゴは美しいとか、雰囲気が良くなるためのものではなく、その仕事・商品・会社の価値を伝えるもの。
- 情報を集約して、一目で価値がわかるものにするのがグラフィックデザイン。
- 「これでいいや」と思ったところで完成になってしまうので、浅いまま完成してしまわないように気を付けている。
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